シックハウスに関係のある化学物質
シックハウスの発生の理由・特徴
各種化学物質の厚生労働省指針値
化学物質過敏症の定義と症状
診断方法
治療方法
放散メカニズム
ベイクアウト
換気計画の基礎
クロルピリホス:有機リン系防蟻剤として木造住宅の床下等に使用されている。
ホルムアルデヒド:刺激臭のある気体で主として合板等の木質建材に使用されている。
建物について | |
日本の住宅は古来から夏季の室内環境に重点をおいて作られ、大きな開口部と高い床などにより夏の風通しを良くしたり、 中庭を設置して風の通り道を作ってきました。昔ながらの住宅は換気量が極めて多く,室内で汚染化学物質が発生すること も少なく、シックハウスとは無縁でした。 最近は、窓などの開口部にはアルミやプラスチック製のサッシとペアガラスが設置され、壁、床、天井にはグラスウールや 発泡ポリスチレンなどの断熱材が設置されています。近年の住宅は、昔の住宅に比較して隙間は大幅に少なくなりました。 しかし、隙間が減ったことによって外の風や室内外の温度差による換気量は減少し、室内で発生した汚染物質を外に排出することが 困難になってしまいました。 換気が不足することによって室内で発生した水蒸気が室外に排出されなくなり、カピやダニが発生し喘息などの原因になりました。 つまり日本人は、家は常に勝手に換気されており、機械で換気したり、寒い冬でも窓を開けて換気しなければならないことを知らないし 習慣にもなっていないのです。 更に、家を作る材料も従来の木と紙と土からいわゆる新建材が多用されるようになり、特に石油化学製品からシックハウスの原因 となる人体に有害な汚染化学物質が大量に発生することになりました。つまり最近の住宅では室内で発生する汚染物質の量が増大 し、自然換気量が減少することによって昔の住宅に比べて室内の有害物質の濃度が大幅に高くなることになります。これが、 シックハウスの原因の一つと考えられます。 |
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生活について |
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都市に密集して住宅が建設され,夏季に窓を開放することが困難になってきています。窓を開け放って縁側で涼んでいた生活が 窓を閉め切り冷房する生活様式に変化してしまいました。このような生活の仕方の変化も換気量を減らす原因です。室内の 汚染物質の濃度を上昇させることになります。また建材以外の生活用品にも汚染化学物質が多用されています。例えば家具、 芳香剤や防臭剤,防虫剤には人体に有害な汚染化学物質を発生させる成分が含まれています。化粧品やヘアースプレーにも 汚染化学物質が含まれています。室内に汚染化学物質を持ち込むような生活様式の変化もシックハウスの原因の一つと考えられます。 |
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大気汚染について |
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化石燃料を燃焼させる限り大気汚染物質は排出され続けることになります。特に,ディーゼルエンジンから排出される累煙に 含まれる粉塵は人のアレルギー体質を助長すると言われています。例えば花粉症は花粉とディーゼルエンジンからの黒煙が 同時に吸い込まれると症状が重くなると言われています。 農業の効率化から、ヘリコプター等で空中散布された農薬の一部は大気中に拡散し大気を汚染することになります。 農薬は猛毒ですから水田の近くの住宅ではこの被害を受ける可能性があります。 |
人体の問題 |
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人類は様々な化学物質を大気中や海に放出し続けてきたわけで,人は呼吸したり食事をする度に汚染化学物質を体内に 蓄積していくことになります。大気汚染の進行により昔に比較して体内に蓄積される汚染化学物質の量が増えたこと,住宅を 新築することで大量の汚染化学物質を吸い込むことが発症のきっかけになります。 また,体内に蓄積された汚染化学物質は世代間で濃縮されると考えられています。つまり母親の体内に蓄積された汚染化学物質が 子供に受け継がれ子供は産まれたときからある程度汚染化学物質を蓄積して生まれてくると考えれば,近年アレルギー体質の人が 増加していることが合理的に説明できます。つまりアレルギーの体質が世代間で継承され後の世代ほど少ない量でアレルギーの症状 を示すことになる可能性が大きくなります。 |
特徴 |
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・ 「空気が悪いと感じる場合がある」住宅のホルムアルデヒド濃度が高い。 ・ 喫煙者がいる住宅ではホルムアルデヒド濃度が高く、喫煙によって室内の空気が汚染されている。 ・ 隙間の面積が小さい住宅で24時間換気設備の設置されていない住宅ではホルムアルデヒドの濃度が高く,築5年以上で隙間の 面積が比較的大きい住宅ではホルムアルデヒドの濃度は低い。 ・ 最近ワックスを使用した住宅ではトルエン濃度が高い傾向があり,ワックスからVOCが発生している。 ・ 殺虫剤を使用している住宅の方がバラジクロロベンゼンの濃度が高く,殺虫剤を使用することによって室内のVOC濃度が高くなる。 ・ 口から体内に入る飲食物はたったの15%です。呼吸により体内に入る空気は、全部で83%でそのうち57%が室内の空気です。 |
化学物質名 | 濃度指針値 | 気中濃度 | 発生源 |
ホルムアルデヒド | 100μg/![]() |
0.08ppm | 合板、壁紙用接着剤、接着剤 |
アセトアルデヒド | 48μg/![]() |
0.03ppm | 壁紙用接着剤、接着剤、防腐剤 |
トルエン | 260μg/![]() |
0.07ppm | 内装材等の接着剤、塗料 |
キシレン | 870μg/![]() |
0.20ppm | 内装材等の接着剤、塗料 |
エチルベンゼン | 3800μg/![]() |
0.88ppm | 内装材等の接着剤、塗料 |
スチレン | 220μg/![]() |
0.05ppm | 一部の断熱材 |
バラジクロロベンゼン | 240μg/![]() |
0.04ppm | 防虫剤、便所の芳香剤 |
テトラデカン | 330μg/![]() |
0.041ppm | 灯油、塗料等の溶剤 |
クロルピリホス |
1μg/![]() 小児は0.1μg/ ![]() |
0.07ppb 0.007ppb |
防蟻剤 |
フェノブカルブ | 33μg/![]() |
3.8ppb | 防蟻剤 |
ダイアジノン | 0.29μg/![]() |
0.02ppb | 防虫剤 |
フタル酸ジ-n-ブチル | 220μg/![]() |
0.02ppm | 塗料、接着剤等の可塑剤 |
フタル酸ジ-2- エチルヘキシル |
120μg/![]() |
7.6ppb | 壁紙、床材等の可塑剤 |
化学物質過敏症の定義と症状
化学物質過敏症は以下のように定義されています。
@ | 慢性疾患である:完治するまで症状が続きます。 |
A | 再現性をもって現れる症状を有する:一度化学物質に反応して症状が出た場合には同じ化学物質に必ず反応します。 |
B | 微量な物質曝露に反応を示す:健康な人には影響を与えないような極微量な化学物質にも反応します。 |
C | 関連性のない多種類の化学物質に反応を示す:化学物質はその構成でいくつかの種類に分けられますが、種類の異なる化学物質にも反応して症状を示します。 |
D | 原因となる化学物質の除去で改善または治癒する:極めて清浄な空気を供給するクリーンルームや都会から空気のきれいな郊外への転地治療により,症状が改善されたり完治します。 |
E | 症状が多くの器官,臓器にわたっている:例えば気管のみに影響を与え喘息と同じような症状のみを示す場合は少なく、めまいや頭痛、湿疹など様々な症状が起きます。 |
以上の6つの条件を満足する病気を、米国では化学物質過敏症と定義しています。
「かなり大量の化学物質に接触した後、または微量な有害化学物質に長期に接触した後で、非常に微量な化学物質に再接触した場合に出てくる不愉快な症状」
という簡単な定義もあります。
化学物質過敏症の症状は、同じ化学物質の作用によっても同じ症状を示さないことです。ある患者さんはホルムアルデヒドを吸入すると頭痛が起きますが、
他の患者さんは同じ化学物質で下痢を起こしたりします。
落ち着きのない子供や暴力的な子供の原因の一りに化学物質過敏症が考えられています。
診断方法
化学物質過敏症の診断にはいくつかの方法があります。
@ | 問診です。患者さんの病歴を詳しく開くことによりほとんどの場合診断がつきます。これまでに患者さんがどの程度の化学物質を体内に蓄積しているかが化学物質過敏症の発症に大きく関係するため,転居の回数,生活習慣,生活環境における化学物質の使用量,食事の内容など大変細かく調べる必要があります。 |
A | 自律神経機能の検査と脳機能の検査です。自律神経機能の検査の一つに瞳の検査があります。一般に有機リン系の化学物質では瞳は小さく,トルエンでは大きくなります。客観的な化学物質過敏症の証拠となります。 |
B | 眼球運動の検査です。正常な目は目標が動いている場合にはスムーズに追従することができます。この動いているものを見たときに追従する機能が低下していることが化学物質過敏症の特徴の一つです。この検査方法は極めて有効でほとんどの化学物質過敏症の患者さんに異常が認められます。 |
C | 負荷試験があります。これはチャレンジテストと呼ばれるもので,化学物質過敏症の症状を引き起こすと思われる物質を患者さんに投与して患者さんの症状の変化を観察し,症状の悪化を確認する方法です。反応している化学物質は確実に症状を悪化させていることが分かります。 |
化学物質過敏症は決して治らない病気ではありませんが,これを飲めば直るというような特効薬があるわけではありません。また,治療方法と予防方法は同じです。 |
@ | 生活環境から化学物質を排除することです。 化学物質を発生させる建材や接着剤,家具を極力使用しない。そして、適切な換気を行い室内の濃度を低下させることです。また、衣服の防虫剤やトイレの芳香剤は極力使用しない。 |
A | 体内に蓄積された化学物質を分解・排出することです。 体内に入ってきた化学物質を解毒するためにはビタミンやミネラルが有効です。 低温のサウナやプールで歩く,汚染されていないぬるま湯に長時間入浴することも脂肪組織中の化学物質の分解に有効です。 適度の運動を行うことにより新陳代謝が盛んになり,汗をかいて化学物質の体外への排出を促進する働きがあります。 転地治療として、都会の空気は郊外や田舎の空気に比較して汚れていますので,空気のきれいな郊外に引っ越して運動することはストレスの解消の点からも症状を改善させる有効な方法です。 |
コップに入れておいた水が2,3日経つといつの間にかなくなっているのはよく経験することです。これは水が常温でも蒸発して水蒸気になったことを示しています。揮発性有機化合物も同じで沸点以下でも気体になって空気中に放散されてきます。 ペンキを塗った壁やワックスを塗った床でまだ乾いていないような場合には蒸散支配型の放散が起こります。この場合には床や壁の表面に存在する揮発性有機化合物が無くなるまで室内に放散されます。また、建材の内部に含まれる化学物質が建材の表面に滲み出てきてこれが空気中に放散される場合を拡散支配型の放散と呼んでいます。例えば合板から接着剤の成分が放散するような場合です。 新築した直後に部屋の中が臭うのは蒸散支配型の化学物質の放散によるもので,ある程度時間が経っても室内で化学物質が検出されるのは拡散支配型で放散されるためと考えられます。 自然の木を使えば化学物質は発生しないと考えますが,実は我が国で一般的に使用されている木材の中には防腐剤で処理されたり害虫の駆除のために殺虫剤を噴霧されたりしているものもあります。従って,自然の素材でも必ずしも安心はできません。ヒノキやヒバの香りも揮発性有機化合物の一つです。普通の木もテルペン類と呼ばれる揮発性有機化合物を放散しています。木材から発生する化学物質をゼロにすることはできないのです。しかし,自然材の安全性は工業製品である新建材と比較すれば高いと言えます。ビニールクロスには可塑剤が、複合フローリング材,集成材,合板には接着剤が油性のペンキには溶剤としてキシレンやトルエンなどが含まれています。化学物質を放散しないのは金属,ガラス,タイルや煉瓦などのセラミックくらいで,ほとんどの材料が化学物質を放散しています。 |
住宅で使用されて人体に有害な化学物質はその多くが揮発性です。従って室温が上昇すれば放散量が増加し,部屋の濃度は上昇します。逆に室温が低くなれば放散量が減って濃度は低下します。このことを利用して,意図的に室温を上昇させ建材などに含まれている揮発性有機化合物の放散を促進させて新築直後の室内のホルムアルデヒドやVOCの濃度を低下させる方法をペイクアウトと呼んでいます。これは原理的には効果があると考えられます。しかし,建材の表面から放散される汚染化学物質には効果的ですが,建材の内部に含まれていて徐々に表面に出てきて室内に放散される物質に対しては大きな効果は得られません。ペイクアウトは具体的には部屋を換気しながら室温を40℃程度まで上昇させ,建材からの化学物質の放散を促進させ,放散された物質を換気で外部に排出することになります。ペイクアウトを行うことにより新築特有の臭いをある程度除去することができます。但し,建材内部に蓄積されている化学物質にはあまり効果がありませんので注意が必要です。 |
換気とは 室内で発生した汚染質の排除や人間に対する新鮮外気の供給を換気といいます。この場合の換気量は多くても換気回数で10回/h以下となります。よく似たものに通風というものがあります。室内に人が感じる気流を導入し,体感温度を下げることが目的で,換気回数で数十〜数百回/h程度となります。 換気を引き起こす原因となるのは室内外に生じる圧力差です。空気は圧力の高いところから低い方へ流れます。@外部の風速と室内外の温度差によって生じるもの(自然換気)と、A換気扇や送風機で強制的に生じさせるもの(機械換気)があります。 換気回数とは 部屋の1時間の換気量を部屋の容積で割った値です。条件にもよりますが、昔の住宅で気密に配慮されていない場合には自然換気が換気回数で2〜3回/h程度,最近の高断熱・高気密住宅で窓を閉め切っていれば0.2〜0.5回/h程度の換気回数になります。 必要性 1人が1時間に消費する酸素の量は活動状態によっても異なりますが約20リットルと言われており,最低これだけの酸素を供給しなければ生きていくことはできません。更に室内では人体や燃焼器具,壁や床から空気を汚染する人体に有害な物質や人間が不快と感じる物質が大量に発生します。従って汚染された空気を室外に排出し,新鮮な外気を供給する必要があります。最近の気密サッシの普及や省エネルギーを目的とした断熱・気密化により,隙間からの自然換気のみでは必要換気量をまかなうことができなくなり,機械換気計画の必要性が問題となっています。換気が不足すると室内で様々な障害が生じます。極端な例は一酸化炭素中毒による死亡事故ですが,結露,カビ,ダニの発生,新建材などから発生するホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物によるシックハウス症候群なども問題です。 換気計画 換気をするには,必要な場所に必要な量の新鮮外気を供給する必要があります。計画的に換気をするためには建物の隙間を極力少なくする必要があります。隙間の多い建物では、隙間からの給排気量が相対的に多く計画的には換気はできません。計画的に換気を行うと、隙間風に悩まされることもなく省エネルギーの観点からも有利です。 |