家訓

 家訓は、すでに平安時代に公家のものがあり、武家社会では倫理や一族の結束を説くものでした。近世では大名が自藩の永続のために家訓を定めています。  商家の家訓は、一般に事業に成功した老年者が、家名と家業の継続と繁栄を願い、自分の商業活動の体験や苦労をもとに、人生でつちかった教訓を加えて子孫や店中に与えた訓戒の文章です。こうした家訓は、いずれも勤勉・倹約・正直・堅実・寛容といった内容を重視しています。

松居遊見 家訓

■ 「しまつして、きばる」

 近江商人の商法は、八幡商人・日野商人・五個荘商人など、活躍した時代や場所により異なりますが、共通するのは遠い地域間の価格差を利用した点です。また、商売相手の利益を優先して考えるために薄利でした。そこで利益を上げるために、他人の嫌がる苦労を進んで「きばり」、長期的にみて経済の合理性を求めたのが「しまつ」です。ケチと誤解されやすい「しまつ」の極意がここにあります。

■ 「三方よし」(さんぽうよし)

 「他国へ行商するもの総て我事のみと思はず、其の国一切の人を大切にして、私利を貪ること勿れ…」は、五個荘商人中村治兵衛の家訓です。  売手によし、買手によしは常識ですが、これに世間よしを加えたものが「三方よし」です。幕藩時代、出先地域での経済的貢献が、近江商人の経済活動が許された理由です。これが「世間よし」の意味でした。

                               松居遊見 家訓 金持商人一枚起請文 金持商人一枚起請文

■ 「奢者必不久」

 「奢れる者かならず久しからず」は、五個荘商人松居遊見が座右の銘とし、自分の肖像画に自ら大書し遺訓としました。  豪商で知られた松居遊見でも、表向きは百姓の身分で、商いはあくまで農間の余業でした。その生活はきわめて質素で、手織木綿の衣服を着、常にわらじをはき、粗食で粗末な家に住み、陰徳を積むことを喜びとしました。

■ 「好富施其徳」

 「富を好しとし、其の徳を施せ」は、八幡商人西川利右衛門の家訓です。
商売が繁盛して富を得るのは良い事とし、その財産に見合った徳、すなわち社会貢献をすることが重要と説きました。商いが大きくなると共に商人も大きな徳を持った人間へ成長しなければならないとしています。

近江商人博物館

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