大地に還す(初期)

雨あがり

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大地に還す @

プロフィール

 昭和三十二年生まれ。橘女子中学・高校を経て京都精華大学美術学部卒。生まれてまもなく聴覚をなくすというハンディを持ちながらも、精力的に創作活動を行っている。画家ブライアン・ウイリアムズさんの協力により、平成十四年十月、八日市図書館において初めて個展を開催した。以後、滋賀・京都など各地において個展を行っている。京都西陣在住。

昨年の五月、良い場所があると知人に案内されました。こんなにたくさんの蔵のある風景を今まで見たことのない私は驚き、さらに半世紀ほどさかのぼった感じですごく感動しました。
 しかし、傷みがひどくて、このまま放置すれば壊れてしまいそうで、もったいないなあと思いながら、早速スケッチをしました。
 古い建築には、当時流行したデザインや仕組み、そして、綿々と受け継がれた日本の文化が残っていると思います。これらと共存しているにもかかわらず、私たちは気づくことなく忘れてしまいつつあります。
 当時のデザインに興味のある私は、未来の子供達、すなわち子々孫々に伝えたいと思い、絵で私の感じた当時の風俗文化を表現しようと活動しています。
 堀井家の建物は、デザインも仕組みも優れた技術や材料をふんだんに使っているので、百年以上もしっかりした状態で維持されています。これらのすばらしい建物は少し修復すれば、まだまだ残していくことができると思います。
 そして、これからも多くの芸術家の集まる場として残してほしいと思います。
小畠 由佳理 
旧堀井家周辺に魅せられて
岡田 文伸 
出会い 
平成十五年五月、新緑のまぶしい昼下がり。春の田植えの小休憩。私はふと堀井家のほうに目をやると一人の女性が堀井家をスケッチしている。そばにはその女性のお父さんとお母さん。絵ができあがっていくのを楽しそうに見つめている・・・これが画家小畠さんと私の出会い。柔らかくて繊細なペンのスケッチの上に絵の具が魔法のように描かれていく。まるで春を迎えた木々が一斉に芽吹くように絵がいきいきとしてくる。「スケッチするのに、こんなすばらしい場所はあまりないんですよ」と小畠さんに教えてもらって、堀井家の風景をあらためて見直す。なるほど・・・小畠さんのおかげで、日頃見慣れた風景が、全く新鮮ですばらしい風景に出会った錯覚をおぼえる。ありがとう小畠さん。
 堀井家とは、今は忘れ去られてしまったガリ版こと「謄写版」を発明した「堀井新治郎」の生家。新治郎は明治二十七年謄写版を発明し、日本のみならず全世界に広めた明治の発明家。昭和四十五年以前に生まれた日本人なら小学校か中学校でやったことがあると思うが、鉄筆を使ってガリガリとロウ原紙に文字を書いて(というより「刻んで」のほうが正しいのかも)、インクで手を真っ黒にしながらローラーでザラ半紙に印刷した。今、ガリ版と聞くだけで物が無かった昔が瞼に浮かび懐かしさが込み上げてくる。しかし、残念なことに、堀井新治郎の設立した会社は平成十四年の秋、百十年の社歴に終止符を打った。偉大な彼の功績を伝える堀井家の組織は無くなった。
 経済最優先で走ってきた半世紀。これが幸か不幸か、大切な過去の歴史や文化を忘れてしまいそうな危機的な現在の日本。そんな思いを少しでも払拭しようと、わたしは「夢プラン」という事業に積極的に取り組んでいる。
 市町村という行政の歴史は浅いが、集落の歴史は非常に深い。私の住んでいる蒲生町は合併してから五十年の歴史しかないが、集落の歴史は何百年という非常に深い歴史がある。その間、様々な苦労と不安の歴史もあっただろう。長い歴史を存続させる肥沃な恵まれた土地とそこに住む人々の家族のような団結力と協調性を感じる。そんな深い歴史や文化を我々の時代で簡単に捨ててしまってはいけないと訴えながら、この事業を進めている。
小畠さんは絵を通して私と同じようなことを訴えかけているように感じる。日本人が置き忘れた大切なものを、忘れないように皆の心に問いかけてくれている。そして彼女のまわりには、耳の不自由な彼女の思いをなんとか皆に伝えようと努力している人たちが数多くいる。彼女の個展を自分のことのように手伝っている人、彼女の移動手段を確保してくれる人、そんな人たちに出会っていろいろ話をすると、私の心は温かくなり、私の「夢プラン」にかける情熱がますます強くなる。
小畠さん、これからもすばらしい題材に出会って、あなたの純粋な思いを作品に表現していただき、今の日本の良さや忘れ去られようとしている時代の流れをより多くの人達に伝えるためにがんばってほしい。

早 苗

夕映え

沈みゆく夕日

午後のひととき

納 屋