医師のやりがい生み出す魅力ある病院づくりとは?

■平成21年3月16日(月) 

=昴会・相馬俊臣理事長に聞く=

「滋賀だから助かったと言われるようにしたい」と地域医療への熱い思いを語る相馬理事長(日野記念病院で)

◇東近江・日野町
 日本国内の安全保障ともいうべき医療体制は崩壊寸前。自治体病院では財政危機と医師不足に苦悩し、激務による勤務医の疲弊が地域医療危機に拍車をかけている。そんな暗たんたる中、医療法人社団・昴会の相馬俊臣理事長(70)は徹底した市民目線に加え、医師にとっても魅力ある病院づくりを進めることで、地域医療に新たな活路を見い出そうとしている。東近江地域さらに滋賀県の医療レベル向上を目指し、攻めの経営を行う相馬理事長のインタビューを通して、地方病院の生き残り策と地域医療を守る手がかりを探った。(櫻井順子)

 京大医学部出身で勤務医経験のある相馬理事長は、京都府医師会の役員として小児救急医療の体制整備を先導するなど、地域医療の充実に貢献。その手腕にほれ込んだ当時の町長から懇願され、昭和六十年、日野町に総合病院を核とした医療体制をしいた。
 事務局長への第一声が「プロが認める病院を作ろう」だったと振り返る。現在、形成外科や美容外科、歯科口腔外科も含め十八科目をそろえる総合病院“日野記念病院”と、脳神経外科と循環器科で高度な先端医療を提供する“湖東記念病院”のほか、介護老人保健施設や訪問看護ステーションも運営している。
 特に、湖東記念病院の滋賀ガンマナイフセンターは、県内で唯一、開頭手術を行うことなく腫瘍を凝固・壊死できる最新鋭装置“ガンマナイフ”を備え、神の手を持つ男と称される福島孝徳・脳外科医が手術に訪れるなど、県内のみならず全国から注目される施設に成長した。
 診療科目の細分化が進むにつれ、病院存続には高度な知識・技術を有する専門医の十分な確保が欠かせない。しかし、医療費抑制を柱とする国策に起因した医師の絶対数不足により、とりわけ地方病院は医師不足に頭を悩ませ、二十四時間以上の連続勤務が常態化している。医療事故の危険性と隣り合わせの劣悪な環境下で、医師自らスキルアップに費やせる時間は少なく、外科医の立場から相馬理事長は技量評価の高い海外への医師流出を危惧する。
 滋賀県に一人でも多くの医師を留めるため「京大や京都府立医大、滋賀医大など出身大学に関係なく、どの医師も参加して技術を学べるような環境をつくりたい」と医療業界の常識を打ち破り、技術を磨き合う場として両病院を開放している。
 「医師がやりがいを見い出せ、モチベーションの上がる医療環境・病院づくりが何よりも重要だ」。学閥の垣根を越えた医師のネットワークの中で先端医療を吸収・実践できる病院は、都市・地方に関係なく若い医師から優秀な中堅医師をも引き付け、医師獲得に効果を上げている。
 一方で、民間経営の病院すべてが金儲け主義であるような固定観念が、市民間には浸透している。「そのような誤解を受けているが、最新の医療機器導入一つをとってみても、技術革新のスピードに乗り遅れることなく即決即断できる強みが民間にはあり、経営者の方針次第。『なぜ医者になったのか』という原点を見失わなければ、理想の病院・医師像はぶれない」と強調し、「医師が不安なく自らの技量を発揮でき、市民も安心できる医療環境」の整備を目指す。
 地域医療を一総合病院だけで担うには限界がある。日野町をはじめ東近江地域では、日野記念病院を巣立った医師が開業するケースが多く、「第一次医療機関が充実しなければ、総合病院の医師は今以上に疲弊してしまう。開業医となった彼らが支えてくれている」と機能分化も推進する。
 医療人の努力だけでなく「行政・医療人・市民が三位一体となって考え行動しなければ、今の医療水準すら保持できないだろう」と指摘、市民に対してかかりつけ医で初診を受けるなど医療機関の使い分けを促す。
 “滋賀県だから死んだと言われたくない”から“滋賀県だから助かったと言われるようにしたい”と、脊髄外科・消化器科・呼吸器科・周産期医療に特化した専門病院開設の構想を温めている相馬理事長。地元の医学生そして県内外の優秀な医師たちが働いてみたいと思える環境・病院づくりこそが、課題解決の近道かもしれない。



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